映画と本と、珈琲と。

主に映画と本についてのブログです。

愚者の毒/宇佐美まこと

『麦ちゃんの言う面白い、や、唸る!は、とても参考になるのでどんどん紹介して!』と仰ってくれる方が多いので💓調子に乗って本日は

 

外せないこの一冊、を、ご紹介。なんなら、一番好き。

 

ファンタジー気質ではないのでどうしても好きな方向が

"現実味があり(もしくはノンフィクション)、考えさせられる作品が好き"

ですので夢見がちなホワホワした物を好まない為にそれらをお望みであると私のおススメはヘビーである事には違いない、と思うのですが…

 

くそ唸った

 

作品があるのでそれを是非書いておきたいと思います☺

 

こちら。

【📖愚者の毒/宇佐美まこと📖】

一九八五年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは一九六五年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった…。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!

もう、一言でいって"凄い"です。唸ります。

 

このタイトルの愚者の部分。

これがニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』に出てくる

多くのことを中途半端に知るよりは何も知らないほうがいい。
他人の見解に便乗して賢者になるくらいなら、
むしろ自力だけに頼る愚者であるほうがましだ。

という言葉に当たるのですが、では続いて現れる"毒"という言葉はなんなのだ、と言いますと以下本文からの引用ですが

 

「こういう事を言った研究者がいましたよ。『命を奪う毒と命を救う薬との違いはほんのわずかである』ってね。」

この上記の愚者+毒=真の賢者とその配合の確率(運)

というのがこの本のタイトルになってきます。

 

個人的にサスペンス小説が好きなんですが、サスペンスというと推理部分の方が多くなってきてしまい『〇〇警部補シリーズ』だとか『犯人は誰かを考察するのが面白いので好き』という方も多いので、重点としてはその推理考察に比重がかかってしまうわけですが、私は!純粋に!サスペンスが好き!!

 

ここ難しいとこですよね。

サスペンスで探すとどうしても推理物がかぶってくる、だからと言って、ではサスペンスミステリーとかならどうか…としてみると、頼んでもないのに超常現象物をひきあててきちゃうしw

 

ぶっちゃけ犯人なんかどうでもいいのですw誰が誰を殺したとか興味ないんです。

被害者がいれば当たり前に加害者がいるわけですから。ただ、生きている限り、誰もが被害者にも加害者にもなってしまうその状況で、何がどうして人をそうさせたのか、の方が私にとっては重要であり、その人をそうさせてしまう何か(動機と背景)を緻密に描き上げたものが好き!

 

そして、この愚者の毒は、恐ろしい程に重く、辛い人生を描き出します。

 

文学としても大変優れているし、なんだったらルポでもいけんじゃねーのか…という位の手応えの中、交差する人間模様、なんとなく気づいてたけど…あぁ…あああ!という波にのまれます。その、ああ!が連続するうえに、こっちが考えていた程軽いものではなかった…という悲しみに、真の悪とは何か、をとても考えさせてくれます。

善人だからこそ持つ生への後悔や苦悩、善があるからこそ際立つ悪、皆が皆、誰かが自分と他者の幸せを願い、それなのに翻弄されてしまう人生の残酷さ。そこが本当の"毒"である部分で、ほんの小さな違いに過ぎず、生かすものもあれば殺すものもある、という部分なんだと思います。望んではいないのに、時に抗えぬ運命がある。

 

ガツンと来ます。

 王道といいましょうか、古典的でありながら、生きるという部分にはある程度、運で定められた何かがあり、皆平等とはいかぬまでも、真の賢者である愚者として残された人生を歩んでいきたいな、と思わせてくれた本でありました。

 

重いです。途中、だいぶ辛いです。

普段なら500ページ物は二時間程度で読む私もこればかりはじっくりと何日もかけて繰り返し読む程の話です。

だいぶ辛いですが、お読みになって頂けると私の言いたい事も伝わると思いますw